アルバムタイトルの意味、収録曲全て揃って1つの作品に
――トータルでみなさんが考えられるというのはすごい武器ですよね。では、『A-UN』というタイトルはどのタイミングで付けられたのでしょうか?
高野寛 レコーディング中にずっとタイトルを考えていたんですけど…。
佐橋佳幸 ある日、高野くんが「『A-UN』ってどうかな?」って言ってきたんだよね。
高野寛 今話していても“会話する必要がない”ということが出てきたんですけど、それがこのセッションを一番象徴していることだと思いました。あと、50音の始まりと終わりという、色んな含みがあっていいなと。
佐橋佳幸 よくそれを思いついてくれたと。素晴らしいですよ。全くもって、作っている時間を思い出させてくれるんです。
――音楽は記憶を呼び起こす力があると言いますが、音楽というものの本質にはそういうこともあるのでしょうか?
高野寛 そういうのが残せたらいいよねって思います。
佐橋佳幸 “レコーディング”っていうくらいですからね。「記憶、記録」ですよね。
――昔ながらの音楽の良さ、今のレコーディング技術の良さがうまく合わさっていると感じます。まず、音がすごくいいですよね。
佐橋佳幸 飯尾(芳史)さんのおかげですよね。高野さんのソロアルバムもやってますし、僕の仕事は9割方が飯尾さんです。
高野寛 もともとYMOのエンジニアとしてスタートしている方ですからね。
――何十年もの音楽の変化を見てきているみなさんだと思いますが、大きく分けて音楽シーンのターニングポイントはどのあたりにあったと思われますか?
佐橋佳幸 たくさんあるなあ(笑)。CDが登場したときとか。そういえば高野くんがデビューした頃はCDしかなかった?
高野寛 ギリギリで1stの『hullo hulloa』だけアナログで出ているんです。
――CDに切り替わったとき、どうでしたか?
佐橋佳幸 もう、有無を言わせずにその状況ですからね。
Dr.kyOn まずCDをかける機械を買いに行かなければというくらいの(笑)。
佐橋佳幸 僕は83年デビューなので、まだアナログ盤を出して、マスタリングもカッティング工場に行くという時代でした。アナログからCDになった瞬間、レコーダーがデジタルになったとき、それからPro Toolsになったとき、このあたりが大きいです。最近だと配信ですよね。僕らがデビューした時代ってもう打ち込みもあったよね?
高野寛 ありましたね。
佐橋佳幸 だから高野くんも、全然そっちの方もわかっている、そういうことがOKな最初の世代だよね。抵抗感がないというか。ジェームス・テイラーもYMOもクラフトワークも大丈夫な人達(笑)。デジタル機器が出始めていたときだったんです。
それにまつわる話をすると、昨年立ち上げたGEAEG RECORDS(ソミラミソレコーズ)をやらないかと投げかけてきた、クラウンの本部長さんが言っていたことを思い出すのは、「買ってくれる人はいまだにパッケージを買う。日本のものも外国のものもこだわらずに聴いているユーザーというのがきっといると思うから、その人達が聴きたいものを作ってくれませんか」という話をしてくれて。
――流行りとかではなく本質を追求したものですよね。先程もお話に出た配信についてはどうお考えですか?
佐橋佳幸 配信になったときはさすがに「こんな音になっちゃうの?」って思ったんですけど、現在はそれを良くしようという方向に向かっているじゃないですか? 良い音で聴くための装置があったり。でも、パッケージとして盤があって歌詞カードがあって、ジャケットがあって、という形で楽しんでいた僕らからすると、それがないと少し寂しいなとは感じます。僕が買ったときは音酷いなと思いましたよ。それこそ「曲間が違うな?」とも思いました。CDではもう少し間があったような気がして。配信だとその辺が関係なくなってしまったり。
高野寛 多分、ノイズが乗るからフェイドアウトが早めに絞られていたりするんですよ。
佐橋佳幸 なるほど!
――そういう事情もあったんですね。
高野寛 アナログ盤をCD化するときに、聴き慣れている盤だと「フェイドアウト早いな」と感じるものがあります。
Dr.kyOn もととなるマスターがない場合が多いからね。レコードしか原盤がなくて。タイトルが付いているというのは、それが作品だという意味なんですよね。1曲1曲はみんな精魂込めて作るんだけど、更にそれが集まった『A-UN』というアルバム全体も一つの作品でもう一個あるんだと。そこも楽しめたら面白いなと思います。
佐橋佳幸 そうそう。作り手にとってはね。そういうことだから。
Dr.kyOn だからそこにタイトルを付けていると。そうでなければ別にアルバムにタイトルがなくてもいいんです。アルバムが作品でないのであれば極端な話ナンバリングだけでも良いわけで。
佐橋佳幸 『高野寛20180214』でいいんですよ(笑)。
Dr.kyOn だからそこを考えるのが面白いし、楽しいし、そこも含めて総合的な作品として伝わると嬉しいですね。
佐橋佳幸 『A-UN』というタイトルが決まって、ジャケットデザインの第一稿が出来たときに、自分達が作ったもの全部が一つになるというイメージが広がる感じ、それは作り手でもあり聴き手でもある自分にとっての喜びだから。
高野寛 あと配信だとクレジットが見れないんですよね…。
佐橋佳幸 そうそう!
高野寛 このアルバムみたいに、参加してくれているミュージシャンが大事で、何の楽器をやっているかとか、そういうことが肝なのに、配信だとそれが一切わからないという。下手をすれば誰がプロデューサーなのかもわからないんです。
佐橋佳幸 エンドロールのない映画みたいなものですよ。
Dr.kyOn うん。まさにそう。
高野寛 ミュージシャン同士の阿吽の呼吸で成り立っているアルバムなのに、それが情報として伝わらないというのはもったいないですよね。
――そこも含めての作品ですよね。トータルパッケージとしてもそうだし、人と人の繋がりというのが一番重要なのかと思います。
佐橋佳幸 そうそう。人がやっている訳ですからね…。
高野寛 ゲストボーカルが誰なのかもわからないですからね。
佐橋佳幸 今は曲タイトルの後ろにクレジットが付いていない限りわからないもんね。今回「ME AND MY SEA OTTER」で参加してくれている坂本美雨ちゃんが参加していることも知られずに...。そういえば今回のレコーディングで「何回も歌うと矢野顕子に似てきちゃう」と言っていたのが面白かった。だから早い段階で終わらせました(笑)。