80歳くらいでトニー・ベネットのようなアルバムが出せたら
――「ボーダー」という、バンドサウンドの曲もあります。<ボーダーラインを飛び越えてゆけ>という歌詞は、先ほどの好奇心の話と通じると思いますが、このアルバム制作で何かのボーダーラインを飛び越えることができましたか?
僕は、何かと気を使ってしまうところがあって、今までやってみたかったけどできなかったことがたくさんありました。今回は、こうじゃなきゃダメだと決めつけていたものを打ち破っていった。やりたいことを優先してやらせていただいたというのは、自分の中で一つのボーダーラインを超えることができたと思いますね。
――さらに「Louder」という、ディスコサウンドの曲もあります。ここでは、ジェームス・ブラウンのようにシャウトもしていますね。
こういうサウンドは、好きなんです。メロディ先行だとこういう曲もたくさん作れると思うんですけど、詞先でこういうタイプの曲がどれだけ作れるかは、ある意味でのボーダーラインでした。勝手に詞先では、こういう曲は作りづらいんじゃないかと思い込んでいたんです。
この曲は歌詞ができる前に、こういう方向性も作ってみたいと事前にトラックをいくつか作っていたので、呼人さんもその意図を汲んで作詞してくれたと思います。最初に8小節くらいのトラックをいくつも作り、どれが合うか照らし合わせながら、そこにメロディを乗せていく作り方でした。詞先でもこういうノリの良い曲が作れたことは、僕のなかでは発見でした。
――そしてボーナストラックには「遠雷(Album ver.)」を収録していますね。Kさんの声だけのアカペラで作っていて、アルバムの余韻と言うか、胸に響くものがありました。
「桐箪笥のうた」のカップリング曲ですが、カップリングで終わらせるのはもったいないと思って、新たにアカペラで作りました。これも本当に好奇心で、「絶対にいいと思うんですけどね」と話して、提案させていただいて。ただ作り始めたものの、とても大変でした。コーラスのパターンを考えるのにプリプロを2回やって、実際のレコーディングでは声だけで16トラックも使ったので、時間がとてもかかりましたね。でもその時間が、本当に楽しくて幸せでした。
――では最後に、今後に向けてKさんが思い描いているStoryを教えてください。
自分の音楽活動もおこないながら、どんな形であれ音楽家として成長していきたいです。2回だけネットムービーの音楽監督をやらせていただいたことがあって、そのときがめちゃめちゃ楽しかったんです。歌のない音楽で、歌詞の変わりにセリフを引き立てるように音楽作りをして、それが本当に楽しかった。自分が歌うことにこだわらずに、音楽家という部分でいろいろな仕事ができていけたらと思います。
――歌う側としては、いかがですか?
5年前くらいにトニー・ベネットさんが、『デュエット』というアルバムをリリースしたんですけど、80歳くらいでレディー・ガガさんとか、他にもいろんな若手とデュエットしていて。ああいう生き様と言うか、ああいった作品が作れるのはすごく格好いいと思いました。
どんなに年齢を重ねても「やってやるぞ」という戦いに挑むような気持ちを持っていて、若いアーティストもそれに刺激を受けていて…。音楽って年齢も言葉も国籍も関係なくて、まさしくそれを体現していた作品だったと思います。だから僕自身も、それこそボーダーラインを決めずに好奇心を持って、彼のように長くやっていけたらと思いますね。僕も80歳くらいで、『デュエット』のようなアルバムが出せたら格好いいですね。それが、僕のStoryかな(笑)。