世に出す時って恐いんですよ。大丈夫かなみたいな
――MONDO GROSSO復活直前に、パンキッシュで硬質なニューウェーヴ・バンドAMPSをやられていたじゃないですか? 大沢さんって、ものすごく精神的にパンクな人だと思うんです。そんななか、MONDO GROSSOでは全く違うアプローチとなりました。最新作『何度でも新しく生まれる』の制作にあたって、事前に決意というかコンセプチュアルにプロジェクトを考えられていたんじゃないですか?
実験とか冒険が大好きなんですよ。あと、コンセプトに沿って物作りをするのも好きですね。決めてしまえば逃げれないんですよ。条件や足枷っていうとネガティヴに聞こえますけど、制限があったほうが、達成に向かって努力しやすいんです。もちろん、出来上がっていくごとに不安は増していきますけどね。もう「ラビリンス」なんて、発表するくらいの時には聴きたくもなくなっていて。世に出す時って恐いんですよ。大丈夫かなみたいな。
――たまにSNSでの投稿で表面にあらわれていますよね。
はい(苦笑)。ずっと混乱しているんで、頭も心も。
――今、こうやってアルバムが完成されていかがですか?
まだ冷静じゃないですね。作り終わったところなので、あんまり聴いてないんです。聴くたびに聴こえ方が変わっていて。できるだけギリギリまで直していたいんですよ。でも、もう3日ぐらい前に終わっちゃたんで。もう直せませんよってところまできたので。そうするとしばらくは聴きたくないんです。直したいところが出てきてももう直せないので。
――もともと「ラビリンス」がリード曲となるのは想定されていたのですか?
考えていなかったですね。完成した順番かな。他の曲がそれに値しないとは僕らチームも思っていなくて。逆に言うと、アルバムとしてまとまっているのが奇跡なくらい、作り散らかしていましたね。
コンセプチュアルというものを取り払うというコンセプト
――海外の様々な音楽シーンに詳しい大沢さんですが、本作のサウンド感において、何かインスパイアされた曲、ジャンル、ビートなどはありましたか?
特にないんです。それが今回は特殊というか。割と毎回サウンド・フォーマット的に、四つ打ち限定とかやるじゃないですか? 2ステップにしてみたりとか。今回は、日本語縛りくらいじゃないですかね、コンセプチュアルに考えていたこととしては。
――もともと大沢さんってコンセプトを考えるのがお好きな方ですよね?
そうですね。そういった意味では今回は、コンセプチュアルというものを取り払うというコンセプトだったかもしれませんね。
――なるほど。
ははは、皮肉な言い方してるなぁ(苦笑)。
耳に音として空間で聴こえている時に気持ちがよかったら正解なんです
――この14年の期間の間で、制作スタイルに変化はありましたか?
テクニカルな面でいうと、MONDO GROSSOでは、14年前ぐらいはまだサンプラーやドラム・マシンをメインに使って作っていたと思うんです。そこからDTM、デスク・トップ・ミュージックっていう言い方もおかしいんですけど、それに変わったっていうのが一番大きいですね。
――アプローチの方法がより自由になったということでしょうか?
そうですね。ランダムというか、アブストラクトなものから作るようになったかな。慣れてくると、何をやってもまとまっていっちゃうんですよ。だとすると、それに遠いとこから始めて旅をした方が、より豊かな作品が育まれるっていう理屈で。ものすごいむちゃくちゃなことからスタートしていくんですよ。
――とっかかりの入り口を広くされたということですね。
昔は恐くてできなかったんですよ。このコード進行だったらこうとか、方法論で考えていたんです。でも今は、コード進行がどうとか、メロディーがどうとか、それに対するカウンターがどうとかじゃなくて、音楽って目に見えなくて掴むこともできない一瞬で意味がなくなるものでしょ? だとしたら、耳に音として空間で聴こえている時に気持ちがよかったら正解なんです。自分で一番体現できる方法ってなんだろうなって考えた時に、アブストラクトな作り方が一番ピンときたっていう。
生まれ変わるのは作品だけじゃなくて気持ちとか考え方とか、アプローチの方法とか
――アルバム『何度でも新しく生まれる』は、2017年を代表するアルバムになることは間違い無いと思います。かなりの大作となりましたが、今回のクリエイティヴ作業を通じて、いろんな可能性を見つけられたのでは?
そうですね。14年間自分のソロがあって、いろんなことをやっていたつもりですけど、やっぱりMONDO GROSSOにきちんと向き合うと新たな発見がたくさんありましたね。これは終わったなって思っていた素材からたくさんのヒントを見つけたり、そんな発見ばかりでした。
――“何度でも新しく生まれる”ってことですね。
そうですね。手法やアプローチの仕方とか、たとえば技術などを会得していても、結局は、アルバムタイトルの通りなんですよ。新しく作らないとダメというか。たとえにならないかもしれないんですけど、うちの母親は80歳を超えているんですよ。で、この間父の七回忌に家に帰った時に、僕は普段は朝ごはん食べないんですけど、実家に帰ると食べるのが親孝行みたいな感じがあるでしょ。
朝ごはん食べるのしんどいなって思いながら、うちの母親がね、バターをスティック的に持ってパンに塗ってたんですよ。普通はバターナイフで塗るでしょ? どうしたのって聞いたら、これが一番効率いいって言うんですよ。冗談とかでもなく、進化してるなって思ってしまったんですよ。
――日常生活でも、研ぎ澄ますことで新しい発見はたくさんあるわけですね。
伝統芸能でも、ずっとやり続けていくことで、発見があって、新しい技術を取り入れることってあると思うんですよ。そういうのと一緒だって思ってしまって。生まれ変わるのは作品だけじゃなくて気持ちとか考え方とか、アプローチの方法とか、そんな意識の持ち方って大事だなって学びましたね。そんなこだわりが音のよさや、メロディー、歌詞、リズムの構築にあらわれていると思いますよ。