「ベイビー・アイラブユー」のヒット
――「ラブ・ウィズ・DJ」のヒットもありますが、シェネルさんを一躍有名にさせたのは「ベイビー・アイラブユー」(オリジナルはTEE)と言っても良いかと思います。日本でのヒットは予想できた?
「予想できる訳ないじゃん!」という感じです。完全に自分らしさが出た音楽のど真ん中、という訳ではなかったので、少し怖くもあったんです。当時どういったいきさつがあったのかというと、1stアルバム(※2007年発売のシェネル(原題:Things Happen For A Reason))がヒットして、じゃあ次のアルバムを出そうかということになったんです。でも新曲が出来ていなかったので「こういう日本のいい曲があるけど英語で歌ってみない?」ということで、面白そうだなという気持ちがあったのでやってみたんです。
「せっかくだからカバーアルバムを作らない?」という話になってやってみて、日本で歌手活動を続けることができたんです。「だからトライしてみた」というのも正直な意見なんですけど。それでやってみたらいきなり大ヒットしたので「うわ、凄い、ヤバい!」という感じになって。(※2011年発売のラブ・ソングス)
ヒットしたことは嬉しかったし、ありがたいことなんですけど、同時に「この先カバーをずっと歌い続けなければいけないの?」という怖さもあったんです。「私が本当に歌いたい曲って何だ? 今後どういう音楽をやっていきたいの?」ということが自分のなかでまだ確立できていなかったんです。そのなかで飛び込んで行った、というところがあったんです。
でも自分にとっては、そのおかげで今も日本で活動していられると思っているので、天から降ってきた恩恵だと思っているんです。
――オリジナルではなくカバー曲がヒットしたという、その時に感じた“不安”“怖さ”は「ビリーヴ」(映画『海猿』の主題歌)のときはどうでしたか?
「ベイビー・アイラブユー」がヒットした後、日本でこの先どこへ行けるんだろうという好奇心も芽生えていました。最初のカバーアルバムは歌詞が全部英語で、レコード会社の担当と相談して「だったら日本語だけでオリジナルを歌ったらどうだろう」という話になって。
日本語と英語の半々のアルバムを出して、それが上手くできるかというチャレンジという部分もありました。それをやるという意味で非常に魅力があって。それで「ビリーヴ」を出してみたら大ヒットして「マジ!?」という感じでしたね。
そういう感じで続いて、手応えも感じたし、達成感もあったので、もう十分やったという気持ちになりました。この道からこのまま出られなくなったら嫌だなと思って、変化を求めたんです。
――2年間アメリカでやられていたのは、その「変化」を求めていたということなんですね。
まさしくそうです。
日本と世界の懸け橋に
――世界と日本の音楽シーンの両方に携わっているシェネルさんなので、ぜひ聞きたいのですが、日本と世界(アメリカ)の音楽の違いは?
良くも悪くも日本の音楽は世界の最新トレンドに対して5年位遅いって説明されたことがあります。浸透するまでにという意味で。日本は一度慣れ親しんだものを大切にしますね。新しいものを受け入れる前に、慣れ親しんだ愛着のある大事なものを手放したくないんでしょうね。それは良い部分でもあるんでしょうけど、そうではない面もあると思います。
なので日本は今でも、90年代に出てきたアーバンなR&Bサウンドが凄く好きですよね。私が知っているアメリカ人のプロデューサーで日本からの仕事を依頼されても、90年代のアッシャー的なサウンドを頼まれることが多いんです。でも彼らにとってはたぶんそれはもう90年代のサウンドという気持ちがあると思うんです。
アメリカのプロデューサーの方が、まだ誰も聴いた事のない新しいサウンドを、リスクがあってもやろうとするところが多いのに対して、日本はみんなに受け入れやすい、慣れ親しんだもの、何をみんなが求めているか、何が流行っているか、ということを重要視していると思います。たぶんそれは、日本独特のカラオケも影響していると思います。
(※アッシャーとは=アメリカの歌手、ソングライター、ダンサー、俳優。現在最も人気、実績のあるR&B男性アーティストの1人)
――そうした考えのお持ちのシェネルさんが「ハイブリッドな作品」と例える今作。改めて思うところは。
これまでみんなが聴いたことのないような音楽、曲調を聴いてもらって、それを噛みしめてもらいたいという想いがあります。あまりにもこれまでとかけ離れていて「これなに? 分からない」ってならないような想いで作った作品だから「君がいれば」(9曲目収録)という曲も入れました。
曲によって「これこれ、私の知ってるシェネル」と、ホッとする瞬間もあるんです。それと同時に「何だか聴いたことない、新しくて面白い」という風に、聴いて感じてくれたら嬉しいですね。
――これからも音楽における日本と世界の架け橋として活躍を期待しています。
是非、そうでありたいと思っています。そして、この後にもみなさんにとって「お楽しみ」があります。今は発表できませんがいずれ。
撮り下ろし写真
作品情報
ニューアルバム『Destiny』 2,700円(税込) UICV-1084 ▽収録楽曲 |