ソングライターとしての自分のほうが好き
――今は好きな言葉で好きに曲を作っている、と言われましたが、アイデアの枯渇ではないですが、浮かばないときは無いですか?
もちろんあります。
――このままずっと浮かばなかったらどうしよう? みたいな怖さは?
それはないです。曲を作り始めた最初の頃は、当然そういう感情になったのですが、それを何十回と越えて来ているので。曲が作れないとか、これ以上良いものが出て来ないとなったら、その時はもうすっぱり諦めて、できる時が来るのを待ちます。
――ジタバタしないと。待てば必ず何か浮かんで来ると、経験則としてあるわけですね。
でも、ただジッと待つわけではなくて、何かをインプットする作業をしたりとかしますし。今は、路線を変更したわけではないですが、好きなことをやるというスタイルになったことで、歌詞や曲の雰囲気が以前とはだいぶ変わって、ある意味で、またゼロからスタートしているような状態です。
スタイルを変えずに以前と同じ条件で詞曲を書き続けていたら、きっと書くことがなくなっていたと思います。でも今は、今までとまったく同じことを書いても、今までとは違う言葉や、遊び心の中でやれるので。ちょっと前のほうが「もうねえわ!」って感じだったけど、今は書きたいことがいっぱいありますね。
――今作は、ボーカルを加工して使われている曲が多いですね。昔のソウルの曲で、ボコーダーやトーキングモジュレーターを使った曲が多くありましたが、そういうイメージですか?
昔のそういうソウルも好きですが、僕はオートチューン(音程補正用ソフト)をかけていて。だから考え方も、全くの別ものです。
最近「歌が上手いのになぜオートチューンをかけるのか?」と、よく言われるのですが、それはシンガーとして考えれば、そうなのかもしれないけど…。僕の中では、今はシンガーよりもソングライターとしての自分のほうが好きだから、ソングライター側の自分の指示に従うだけで。そいつが普通に歌えと言えば歌うし、オートチューンで表現しろと言われればそうするし。
だから、「歌が上手いのに、オートチューンを使うのはもったいない」だの何だのと言っているのは、音楽的に視野が狭いなって思います。
――今回はラップ調で歌われているものも多いですね。それもソングライター側の自分が、そういう歌い方を求めたから、と。
そうです。だから、最優先はメッセージです。それを伝えるためにラップしか手法がなければラップをするし、歌しかないなら歌の手法を取るし。自分の制作の中で生まれたイメージを、そのまま具現化しているだけなので。
――ラップだと言葉数を多く入れられるので、メッセージをより細かく伝えることができる利点もありますね。
それは間違いないです。言葉をたくさん入れたいというのがあります。
――アルバムのラストに収録の「Tokyo」は、ラップでこれまでの自身の歩みを歌っていますね。<恵比寿のボロボロのアパート>とか<円山町の連中>とか、歌詞のエピソードはノンフィクションですか?
全部実話です。
――清水さんのご出身は大阪ですが、東京という街は、どんな風に映っていますか?
最初は、あまり好きになれなかったです。当時は地元を出たのが初めてで、街のこともよく分からないし、単純に嫌だなという感覚が強かった。今は、すごく好きな街です。
――どういう部分が好きになりましたか?
あくまでも僕から見た東京は、空っぽで寂しくて、そこが好きです。それを埋めようとして、新しいものをどんどん産み出そうとしている。すごく人が沢山いるのに、どうしようもない寂しさがあって、みんな何とかそれを埋めたいと思っている。だからサッカーの日本代表試合の時に渋谷でみんな集まって騒いだり、それって結局、みんな寂しいということです。
そうやってほとんどの人は、群衆に紛れて寂しさを紛らわせるけど、僕らクリエーターは何かを生み出すことで、それを埋めようとする。だから、東京から色んなものが生まれるのだと思います。