見た物を自分らしく曲に、NakamuraEmi 自問自答を続けた1カ月
INTERVIEW

見た物を自分らしく曲に、NakamuraEmi 自問自答を続けた1カ月


記者:村上順一

撮影:NakamuraEmi

掲載:17年05月25日

読了時間:約16分

NakamuraEmi

NakamuraEmi

あのダークさは合わないんじゃないか?

――今作「Don’t」もNakamuraEmi節が大いに出ています。「大人の言うことを聞け」にも通じるところもあるかなと。

 <Don't Judge me! >という言葉が今回はたくさん入っているんですけど、「勝手に私を判断しないでよ!」という気持ちも凄く大事だと思うんです。けど、自分って大人になればなるほど、自分が確立しちゃって周りからどう見られているか分からなかったりしていると思います。

 「勝手に私を判断しないでよ!」と言ってしまっているけど、「周りからはこう見えちゃってるよ」「天狗になっちゃってるように見えているよ」「あなたはこう見えているよ」という言葉って大人になるとどんどん聞こえなくなっていくと思うんです。

 だから「勝手に判断しないでよ!」と突き飛ばすんじゃなくて、「そういう言葉って凄く大事なんじゃないの」「受け入れるべきなんじゃないの」という面があるので、「大人の言うことを聞け」でと言っている事と完全に一緒ですね。

――TVアニメ『笑ゥせぇるすまんNEW』の主題歌となっていますが、アニメの内容に沿って書いた部分もある?

 完全にそうですね。

――笑ゥせぇるすまん・喪黒福造の「ドーン!」のキメにかけて「Don't」というダジャレ的なアプローチも?

 はい。それもありました。『笑ゥせぇるすまん』は自分も見てきた強烈なアニメだったし、あの「ドーン!」は一番怖いイメージがあって、自分の中でキーワードになっていたんです。私は歌詞を大事にしていてメロディをつけるのはいつも後なんです。アニメだから89秒という短い中で曲を作るという事は初めてだったので、その中で何かフックになるものをと考えたんです。

 私はいつも1曲まるまる歌詞を書いてから曲を作ります。だから短い中で自分が言いたい事を言い切るとか、フックを作るという事は考えた事がなくて。そういう面で今回は「ドーン!」を使って、サビなどの大事な部分のメロディで作りたいなというくらい、「ドーン!」は大きなキーワードとなりました。それをメロディに組み込むという事は絶対条件で進めていきました。

――あの「ドーン!」を使いたくても、自分の曲の歌詞とリンクさせるのは相当難しい事だと思いました。

 最初はこのお話自体をスタッフがお断りしていたんです。『笑ゥせぇるすまん』のイメージが強烈過ぎたので、「NakamuraEmiにはあのダークさは合わないんじゃないか?」という事でスタッフさんが断っていたんですけど、アニメのディレクターの方が「絶対NakamuraEmiさんだと思うんです」という事を3回も言って下さったんです。

――熱烈なアプローチがあったのですね。

 「そんなに言って下さるのは何なんだろう」と思い、その時に初めて私の所にお話が来たんです。脚本を読んだ時に、凄く自分とリンクしている事を感じて。

 まずは脚本を何度も読みました。喪黒福造さんが、サラリーマンや主婦、オフィスレディに何を言いたいのかという事を、自分の中に何日間かで入れ込みました。その中で自分が言いたい事、藤子不二雄(A)さんが言いたい事を組み合わせた感じです。だから一発目の歌詞はナチュラルに出来ました。

――スムーズにいったんですね。喪黒とデュエットしているような感覚も?

 凄く近いものがありますね。1カ月で曲をレコーディングまでやるという事は初めてだったので、けっこう大急ぎで作りました。レコーディング1週間前に初めてバンドでリハーサルに入って、曲もだいたい固まって「これでOK」となった時に、『NIPPONNO ONNAWO UTAU』をずっと手がけてくださっているエンジニアの方が聴きに来てくれたんです。そこで「全然言ってる意味が分からないよ?」って言われたんです。

 <Don't Judge me!><天狗になってない?>という部分が最初は違う歌詞でした。それによって曲がよく分からなくなっちゃってると言われて。曲に向き合い過ぎちゃって自分達では分からなくなっていたんです。

――曲に入り込みすぎていたと。

 そうなんです。『笑ゥせぇるすまん』というブランドがなかったら、この曲は捨て曲だというくらい。「アルバムの中に1曲入るかな、というくらい弱いよ」とも言われまして。でもリハーサルも全部終わってるからどうしようかと。そこからレコーディングまでの1週間は毎日歌詞をカワムラさんに送っては全部ボツ、の繰り返しで…。本当に苦しかったですね。歌入れの当日に完成したくらいなんです。

 タイアップという事と、『笑ゥせぇるすまん』を自分の曲へという感情移入をどこに持っていくかというところを、エンジニアさんが色んなヒントをくれたんです。GLIM SPANKYさんやSUPER BEAVERさんなど、他のアーティストの方がタイアップに対してどう向き合っているかを、色んな記事で見て。そういう風に、レコーディングの1週間前からもう一度向き合い直しました。その時期は苦しかったけど、「Don't」が出来て感動しました。

――タイアップの向き合い方として聞いた話なんですけど、あまり作品に寄せ過ぎると曲として1人歩きが出来なくなってしまうと。でも一度作品の世界観に入り切った後にそれは難しいですよね。

 辛かったですね。今回は私と考えが似ている原作だから良かったんですけど、もし違ったらどうなっていただろうと思います。この1カ月は本当に勉強になりました。

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