THE PINBALLS・古川貴之「ゼロからのスタート」新譜で魅せた新たな布石
INTERVIEW

THE PINBALLS・古川貴之「ゼロからのスタート」新譜で魅せた新たな布石


記者:村上順一

撮影:

掲載:19年11月05日

読了時間:約10分

イメージと違ったことですら良い思い出

「WIZARD」通常盤ジャケ写

――THE PINBALLSのライブから尋常じゃない熱さやエネルギーがあると、常に私はそんな感じを受けていました。さて、2ndシングル「WIZARD」が完成しましたが、制作はいかがでした?

 昨年リリースしたアルバム『時の肋骨』を作り上げて、自分の中にあるアイディアを出し尽くした感じがありました。

――『時の肋骨』はコンセプトが壮大でしたから。

 もちろん音楽への衝動はあるんですけど、ロジカルなところが空っぽになってしまって。それで、次に何をやろうかなと考えた時にゼロからのスタート、セルフタイトルでも良いといった気持ちになりました。

 でも、毎回そういった気持ちで制作に臨んでいることから、既にセルフタイトルのアルバムもあるんです。そこで、僕らのバンド名の由来の一つとなったTHE WHOの「PINBALL WIZARD」から、今作のタイトルは「WIZARD」にしようと思いました。なので「ここからまたスタートします」という想いが込められています。

――そういえばバンドの名前の由来はいくつかありましたよね?

 名前をつける時に僕の中で好きなものが3つありました。一つは村上春樹さんの『1973年のピンボール』という小説、2つ目はBLANKEY JET CITYの「死神のサングラス」なんですけど、その歌詞の中に<Ah 神様は今日もPin Ballに夢中さ>とありました。そして先述のTHE WHOの「PINBALL WIZARD」で、全て好きなものに“ピンボール”というワードが共通して入っていて、これは何かあるなと思ってバンド名しました。

――この言葉に運命を感じてしまいますよね。さて、結局、シングルのコンセプトはどうされたんですか。

 ゼロからのスタートなので、思うがままに作ろうと思ったんですけど、結局コンセプトが降りてきまして(笑)。

――コンセプトなしは無理だったと(笑)。

 結局僕は考えるのが好きなんですよね。それで当初は4曲入りにする予定ではなかったんですけど、作っていくうちに数字と絡めたくなってしまって。それでWIZARD=魔法にまつわることを調べてみて、一番面白いなと思ったのが『オズの魔法使い』でした。僕自身、大好きな作品でもあるし、そこからイメージがすごく湧いて、歌詞にドロシーなど登場キャラクターを当てはめて歌詞を書いたら面白いんじゃないかなと思いました。

――『オズの魔法使い』でしたか。

 それで「WIZARD」はドロシー、『オズの魔法使い』の世界観を表現して、2曲目の「統治せよ支配せよ」は臆病ライオン、3曲目の「bad brain」はかかし、4曲目の「ばらの蕾」はブリキの木こりのイメージなんです。

――それを聞いて歌詞を読むと納得します。3曲目の「bad brain」は、BAD BRAINS(米・ハードコア・パンクバンド)も掛かってるのかなとも思ったのですが。

 そうなんです。BAD BRAINSのようなめちゃくちゃ速いロックチューンではなく、「bad brain」はその逆のゆったりとした曲というギャップが面白いなと考えた所もあります。

――良い裏切り感があって(笑)。

 BAD BRAINSを知っている人はもしかしたら30秒くらいで終わる曲なのかなとか考えたり(笑)。僕自身も音楽ファンとしてそういうのは好きなので、仕掛けとしてちょっと考えていた部分なんです。

――そういうのを考えるのも楽しいですよね。さて、今作もアートワークがカッコいいですよね。

 六星術を使ったデザインで、手前味噌ではあるんですけど、めちゃくちゃカッコいいものが出来たなと思っています。すごくスタッフさんも頑張ってくれていて、ショップ特典のアイテムもカッコいいので、是非チェックしてもらえたら嬉しいです。

――レコード店でゲットして欲しいですよね。CDジャケットもデザインがカッコいいので、ジャケ買いをする方も出てくるんじゃないかなと思いました。

 それは嬉しいです。アミューズメントパークのようにレコード店に行ってもらうのも良いと思います。僕の過ごしてきた年代でもレコード店に行って買っていた時代を過ごしてきたので、ジャケ買いもけっこうしました。当時は全方位で試聴も出来ない時代だったので、少ない小遣いのなか「頼む、イメージ通りであってくれ」といった感じで(笑)。

――自分の思っていたイメージと違った時のショックは大きかったですよね(笑)。

 でも、ジャケ買いでイメージと違ったことですら良い思い出なんです。やっぱり、制作側とリスナー側のすれ違いというのは起きてしまうと思うので、逆にそれが記憶に残っていて、悲しい記憶になってしまったとしても、芸術としてはアリなのかなって。

――私も失敗した時の作品の方が記憶に強く残っています(笑)。さて、歌詞の話に戻りますが、「WIZARD」の歌詞に出てくる「すみれ色」というワードが印象的だったのですが、古川さんの中ですみれ色とはどのような意味があるんですか。

 ここですみれ色と表現したのは、苦悩や葛藤をポジティブなものに変えたいと思って選んだ言葉なんです。それをバラ色や虹の七色など、一般的に善とされている色は使いたくなかったんです。その中ですみれ色というのが、正解のイメージはそこまでない、というところで選んだ言葉なんです。

 歌詞の内容は、例えばロックが好きだからといってあなたの人生は正しくはならない、ということを言いたかったんです。この価値がわかるからすごいとか偉いとか、それは正解ではなくて...。でも、正しいかどうかはわからないけど何かが動いたという感じで。

――後になってプラスかマイナスだったかわかることもありますから。歌詞は最後まで熟考される感じですか。

 僕はかなり書き直します。色々と並行してやっているので、書いているうちに変わってくる部分も多いんです。曲はもうバンバン出来るタイプなんですけど、詞に関してはかなり考えます。

――サウンドについてなのですが、以前とはまた違った印象を受けたのですが。

 エンジニアさんが変わったので、その影響かも知れないです。同世代のエンジニアさんで今までの方もすごく良かったんですけど、同世代ということもあり、やりやすかったです。例えば「Radioheadの『Creep』みたいな感じで」と話せば、通ってきた音楽が近いこともあって、話が通りやすいという場面はありました。

この記事の写真

記事タグ 

コメントを書く(ユーザー登録不要)

関連する記事