知ることが幸せか、知らないことが幸せか
本作の脚本は山戸監督が手掛けた。女子高生のリアルな成長を映し出すなかで、様々な問いかけをおこなっている。そのなかの一つに「知ること」があるように思える。控えめな初(はつみ)は「知らない」ことで傷つくこともあれば、その逆もある。対して茜は好奇心旺盛で、経験も豊富だが「知っていること」が必ずしも幸せを呼び込むわけではないと後に気づく。知ることと知らないこと、どちらが正解なのか。
桜田ひより「茜は何でも知っていることが良いと思っている女の子。だから知っている自分が一番良い状況で、良い人間関係が築けていると思っているところもあり、何も知らない初(はつみ)ちゃんはすごくかわいそうだ、と思っている。ただ、何も知らないことに憧れている茜も実はいて。何も知らないこともどれだけ大切で、宝物なのかを。それが茜にはない部分。私自身は『どっちがいい』というものではないな、と私は思いました」
一方の上村はどう捉えているのか。
上村海成「映画とは関係ないところの日常で考えれば、何も知らないことが良いと思います。知らないに勝るものはない、と。だけど映画では、知らないことで起きてしまう問題もあったし、かといって知りすぎてしまって身動きが取れなくなってしまったところもあって。映画的にはどっちが良いかというのを言いたくなかったのかな、と思います。どっちの立場にも立たないことで公平な目でいろんなことを提起して、それを観に来た人たちがそれぞれの観点で受け取り考える、そういう意図があるのかなとも思いました」
先日おこなわれた完成披露試写会での舞台挨拶で、初(はつみ)を恋する一人、凌(しのぐ)を演じた間宮は自身の中学生時代を振り返り「思春期を迎えた女の子って何でああなんだろう? と思ったことがこの映画で分かった気がする。あのとき彼女たちはこんなことを考えいたのか、と」と語っていた。高校2年生の初(はつみ)がもがき苦しむ姿は心をえぐられるようだ。しかし彼女は複雑に絡み合う感情のなかで前へと進む。年齢が近い桜田と上村はどうみたのか。現在16歳の桜田はこう語る。
桜田ひより「10代の方には、大人になっていく上で一番観てほしい作品だとすごく感じています。10代はやっぱりどうしても自分をおろそかにしてしまう時期でもあると思うんです。自分に自信がなかったり、ほかの人と比べてしまったり。それは人生の上で必ずあることだと思うけど、自分自身を見失う瞬間が多いのは10代の中学生や高校生だとも感じていて。だからこの映画を観てほしいです。自分のことに対して、自分が一番自分のことを大切にしないといけないし、自分が一番自分のことを分かってあげないといけない。そのことを改めて考えさせられるような映画になったと感じています。聞いてみると、大人の方にも刺さっているという声をいただいたので、大人の方にももう一度自分自身の大切さを考えてくれた嬉しいです」
自分自身を知ることは簡単に見えてなかなか難しいものだ。
桜田ひより「難しいと私も思います。やっぱり何かのきっかけがない限り、きっと自分のことを後回しにしてしまうことがあると思うんです。この映画を観て自分のことに対していろいろと考えてくれたら嬉しいと思います」
映画のもう一つのキーワードとなっているのは東京を舞台にしている点にある。繋がっているようで繋がっていない人との関係。劇中では、目まぐるしく変わっていく東京で、大人に翻弄(ほんろう)される若者の姿も描かれている。足早に過ぎていく時間。そのなかで自分と見つめることが大事であると語った桜田の言葉に重みを感じる。一方、高校までヒップホップダンスに青春を捧げてきた現在22歳の上村はどうか。
上村海成「20歳を超えて思うのは、当時まわりに起こっていたことを忘れて、あるいは忘れかけている。でも当時のことをもっと拾うべきだったとも思っていて。当時は原体験としてリアルに思っていた事も今は抜けて生きていて、この作品はそういうことを思い出せると思うんです。もしかしたら忘れていることだから、今は必要ないものかもしれない。でもそういうことがすごく大切だったり、ひよりちゃんも言っていたけど、自分のことを疎(おろそか)にしていたり。やっぱり自分のことを大切にしないといけないことを思い直すとか。そういう反省の時間じゃないけど、高校時代のことを思い出すテーマパークのような感じ。もう1回あの時代を味わえると思います」