自身がない自分を歌ってもいい
――アルバム収録曲では、ご自身で作曲されている「Shooting Star」が個人的に印象的でした。
この曲はよく曲作りをご一緒させて頂くnakaokaanさんと作曲しました。流れ星を見るといいことが起こったり、願いが叶うとよく言うじゃないですか。「流れ星は神様が宇宙からのぞく瞬間だ」という話も聞いたことがあって。「神様がこちらをのぞいているから、願いが叶う」という意味の様なんですけど、そういう話ってワクワクするし、歌にすると楽しいので元気なメロディにしようとも思っていました。描いていた夢は「もうすぐかも!」と思っても、またどこかへ行ってしまったりします。でもみんな一緒に応援しあって、支えあっていれば、きっといつか届くという歌詞になりました
アレンジは松岡モトキさん、宮田“レフティ”リョウさんと3人でスタジオで相談しながら作っていきました。レフティさんの弾いたピアノに私が反応して「今の使いましょう!」と言ったりしながら、みんなで詰めていったんです。冒頭のテーマ部分は、考えている時に民族音楽的な雰囲気を入れたいと思って作っていて。そしたらスタジオの近くで古いお祭りをやっていて、それを意識しながら出てきたのがあのメロディだったんですよ。お祭りの魂がちょっと降りてきたみたいな(笑)。フレーズを細かく聴くと日本や中国的な要素を感じることができるかもしれません。
――デビュー当時では作れなかったという曲とは対照的に「Be Myself」は初めて作詞された楽曲だと聞きました。初作品にしては哀愁漂う質感だなと感じます。
私は切ない歌がすごく好きなんですよ。子どもの頃は家族の影響で洋楽をすごく聴いていましたけど、それも明るいリズムのあるものより、悲しげな歌の方が好きで。英語の歌なので、内容が悲しいかどうかは別としてですけど。この「Be Myself」は初めての作品ですから、それこそ自分の中にあるものを使ってしか作れなかったんです。今だったら「ここはこうした方が曲としていいんじゃないかな」とか「歌詞はこの方が伝わるんじゃないか」とか色々なことが考えられる気がするんですけど。なにせ曲を作ったのが10年前ですから。この時自分が持っているもの全てを出しても、足りないくらいでした。
今思えば、Aメロ・Bメロ・サビという構成にもなってなくて、何も考えないで作っているんですよね。稚拙な部分はあるんですけど、あの瞬間の自分にしか作れなかったものです。これはこれで私の原点だなと感じています。ライブではたまに演奏していましたが、こういうきちんとした形でアレンジをして音源化できないかもしれないとも思っていたんですけど。今回新しいスタートをするに当たって自分の原点を収録することができたのはとてもありがたくて、感慨深い気持ちです。
作った時はもっと悲しい歌だったんですけど、松岡モトキさんのアレンジで少しソウルフルで、力強い楽曲にしてもらえました。今の私が歌う「Be Myself」になったかなと思っています。
――この歌詞の内容は上京した時のことを歌っているんですよね。
どうやって歌手になるかもわからずに突然仕事をやめて、上京してきたんですよ。周りから見たら「何考えてるんだろう、あの人」という感じだったんじゃないですかね(笑)。親にも「はんかくさい(北海道の方言で『あほらしい』)」って言われました。最初はアルバイトして生活しなきゃいけなくて。ボイストレーニング教室も自分で探していくんですけど、何に向かって、何をしているのか分からない。でも「歌手になりたい」という漠然とした想いはありました。でも私は当時「歌手になりたくて来ました」とも恥ずかしくて言えなかったんです。「そんなの無理だよ」と言われるのが怖かったから。
バイトばかりの生活でしたが、自分のデモテープとなるMDは持ち歩いていたんです。カラオケで歌ったやつですけどね。それで、ある時にたまたま入った小料理屋さんで店主に「何で上京したの?」と訊かれたんです。そこで「歌手になりたくて」と答えたら「そうなんだ。今日は音楽プロデューサーが来てるから聴いてもらいなよ」と。その方はDJ兼プロデューサーなんですけど、聴いてもらったら「自分の歌で人を感動させる自信ある?」と逆に聞かれたんです。私は歌手になるために東京に来たんだから「自信あります!」って言えなきゃ歌手になれないと思ってましたし、そう言いたかった。でも、その時は「そんな自信ない」と感じてしまったんです。そういう質問もされたことさえなかったですから。だから素直に「ありません」と答えたんです。
――普通そうですよね。
そうしたらその方が「だったら自信のない自分を歌えばいい」と言ってくれて。そう言ってもらえた時に急に涙があふれてきたんですよ。それまで「自信を持たなきゃ」「強くないといけない」という気持ちが邪魔をしていたんだと分かりました。素直に自分を受け入れることがスタートラインなんだな、ということに気付けたんです。「ありのままの自分を歌っていい」という言葉は、その時の私にとって劇薬みたいな感じでした。葛藤とかじゃなくて「自分が今どうなのか?」ということと向き合う機会になったんだなと思ってます。そのお店で泣きながら作ったのがこの「Be Myself」でした。結局この曲が一番いいと言ってもらえる曲になって、今の事務所に入った時もこの曲のデモテープを聴いて頂いたのを覚えています。
今も「自信ありますか?」と訊かれたら「あります!」と言わなきゃいけないと思っています。でも、そうじゃないと思う心はどんな職業の人でもあると思うんですよ。私もそうですし、何かある度にこの曲を作ったときみたいな気持ちを思いだして「それでも今の自分を受け入れて、歩いていかなきゃ」という考えになれます。この曲ができたばかりの時はライブハウスで歌うと、自分が弱すぎて、涙で歌えない時もありましたから。
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