ツアーがもたらした変化
――そのなかで『SAI』、そしてツアーを終えて、何か意識的な変化はありましたか?
大木伸夫 意識が変わったかどうかはわからないけど、この数カ月、僕はレコードにハマっているんです。音楽をあまり聴かなかった20年を、なぜかこの数カ月…たぶんきっとツアーのおかげだと思うんです。ただシンプルに、音楽を聴きたくなってきたんだと思うんです。今までは「レコードを持っているとカッコいい」みたいな感じでチャラい思いでずっといたんだけど、でも聴いていないまま。でも何かのきっかけでレコードが無性に聴きたくなって。
――この前のインタビューでも音楽は聴かないって言ってましたもんね。
大木伸夫 そう。それがこのツアーを経ることによって何かが外れたのかもしれないけど、プレイヤーを買い直してレコードをガンガン聴くようになって。でも本当に良いと思わないと聴かない、どんなに売れていても、みたいな。そうなると僕はポスト・クラシックというかアンビエンスな曲ばかりなんです。
人が聴いたら「暗い」というものに僕は救われるというか。やっぱりとことんそういうものが好きなのかなと思って。感覚的に僕自身が音楽をそう捉えているのだと思うんです。エンターテインメントでやりたい気持ちもあるけれど、どこか寂しくて悲しい音楽に何故か気持が救われるんですよね。
――弱さも含めて、自分の全てを「認める」ということなのでしょうか?
大木伸夫 「みんな人間は一緒」と言ってるんですけど…、もちろんそうなんだけど、人間には、例えばAB型みたいな“型”のようなものはあると思っていて。僕はそっちの型の方が強いんだと思うんです。暗いというか、覚悟のある曲というか。そういうものによわい、痛感しますね。そういう意味で、音楽をちゃんと受け止められているので、「売れているから良い」「カッコいいから良い」「オシャレだから良い」とかそういうのじゃなくて、純粋に心がグッときてしまうものを今聴くようにしています。それが僕の最近の変化だと思います。
――曲作りの面で変化はありますか?
大木伸夫 変わるんでしょうね。今やっている曲というのは、『Λ』を作り終わるくらいから作っている曲たちなんです。そこから新しくというのはまだ作っていないです。ストックはいっぱいあるんだけど。まだわからないですね。めちゃくちゃポップになっているかもしれないし(笑)。
――それはそれで聴きたいです(笑)。さて、今後はどういったACIDMANが見られますか?
大木伸夫 いつも通りだと思うんですけど、良い曲を作って、良いライブをしてということだけに集中して。あと何曲作れるんだろうというところと対峙しながらやっていくんだろうと思うので。明日誰かが死ぬかもしれないですからね。「明日死ぬかもしれない」って一日に100回くらい思うので。それで今まで生きているから本当に「感謝、感謝」の人生だなと思っていて。後は幸せであるべきだなと。ACIDMANとして。幸せだと思う時間をどんどん作っていきたいなと思います。
佐藤雅俊 大木が作る曲、メッセージを真剣に伝えるために努力していくだけです。
浦山一悟 そのメッセージを信じてくれるファンの人達、自分自身もそうだし、その輪がどんどん広くなっていくこと、そのために自分は何ができるのかということを頑張っていきたいなと思います。
(おわり)