改めて振り返る武道館、あのとき何が起きたのか
――早いもので武道館から4カ月が経ちました。いま、振り返っていかがでしょうか?
浦山一悟 『Λ』は大木の一番伝えたい世界観が濃く出ているアルバムなので、大木自身も今回のセットリストはあまりイジらずに、一つの流れをブラッシュアップして、伝える力を強めていきたいと言っていて。それが日本武道館という所でちゃんと花開いて、お客さんにも伝わって、今までのツアーの中でも最高の時間が過ごせたと思います。
佐藤雅俊 改めて映像を観たら感動したし、あの場所に居られたことに対して、お客さんへ感謝の気持ちがあります。このバンドに居られたから武道館でこうして良いライブができたので、そういうところにも感謝していますね。
大木伸夫 (武道館単独公演を)6度できるというだけでも本当に素晴らしいことだと思うので、それは全てお客さんのおかげ。だから「感謝、感謝」のツアーでしたし、武道館でもその感謝が溢れていた。作品は確かに僕らの作品ではあるけれど、お客さんの視点になっているかのような作品にもなっていると思うんです。一人一人の人生というドキュメントを見ているかのような。そういう感動が得られたので、僕らも色んな感動を頂いていました。
――ステージからはどう見えましたか。
大木伸夫 作品が結構な作品だったので、神聖な世界観にしたくて。MCでもふざけては言ったんですけど、ある意味宗教的なモチーフにしたくて。そういうところで最初戸惑っている人もいたし。そういうのは関係なく入り込んでいる人もいた。最後にはそれが全部、みんなが肯定的なエネルギーで“YES”と言ってくれた感じがしたので、美しい景色でした。
――あの世界観は凄かったですよね。先ほど一悟さんは「あまりイジらなかった」と話していましたけど、セットリストにはかなりのこだわりがあったように思います。
大木伸夫 そうですね。でも、そこまで悩まなかったですね。アルバムの世界観だというところが軸にあるので、そこまで悩まずにできて。肝だったのが「彩-SAI-」だったり「世界が終わる夜」だったり、このアルバムに入っていないんだけど、どう落とし所をつけていくか、みたいな。真ん中のところが肝だったんですけど、非常に良くなってきたなと思いますね。
――必要なところに必要な曲があったという印象もありましたね。全体を通して、いくつかの章に分かれているような気もしました。そういった感覚はありましたか?
大木伸夫 そうですね。分けていたのはまさにそういうことで。一つ一つが終わって、ここで昔の曲たちをやって、真ん中では少しディープな世界に入っていって後半に向けて盛り上がるという分け方は考えました。
――楽曲たちがどんどん昇華していくというか、そのような感じがありました。ライブで印象に残っていることは?
大木伸夫 全部なんですけど、やっぱり「愛を両手に」かな。そこで僕は号泣してしまったので。曲がどう、ライブがどう、というよりも、その前のところでお客さんの歓声に非常に救われたというか、支えられた気分になったので、そこは凄く感動しちゃいましたね。
――確かに、「愛を両手に」は凄いものを感じました。楽曲が、会場全体のエネルギーを受けて、CD音源とはまた違うものが表れていましたよね。
大木伸夫 そうかもしれないですね。ライブの方が肉づいて生々しくなったと思いますよ。音源の方はちゃんと音源として成立しているんだけど、ライブだと非常に生々しいマッチョな曲になっているような気がしますね。
――そうなんですよね、生きているというか。佐藤さんが印象に残っている場面は?
佐藤雅俊 「世界が終わる夜」で号泣しました。この日の「世界が終わる夜」は、それまでの流れもあったんですけど、ただならぬ空気感があって、大木も感極まっていたところがあったし。映像だとお客さんの表情も見えて、一緒に客観的に感動したので、あそこはポイントです。
――「ただならぬ空気感」が気になります。確かにそういうのは感じました。
佐藤雅俊 その前の「Λ-CDM」で、宇宙の「何だこの空間は?」という…。
大木伸夫 2人は宇宙も何もわからないので…(笑)。たぶん、ライブで初めて圧倒されたんだと思います(笑)。これ、載せていいか分からないけど、この曲は、2人が最初ピンときていなかったのは分かっているんです。これは完全に僕のエゴでやるからなって思って。でも2人ともツアーを経ることによってだんだんわかってきてくれている。「こういうことか」みたいな。たぶん武道館ではわかってくれたんだと思うけど。だから、「全然よくわからない曲だと思っていたけど、大木がやりたいっていうから渋々やってた」って言っちゃっていいんだよ(笑)。
佐藤雅俊 渋々じゃないよ(笑)。ライブでよりその曲の凄さがわかった曲であり、そのあと「世界が終わる夜」という違う空気感があり、凄く印象深かったです。
――気迫が漲っていて吸い込まれていくような感じはありました。あの時の感情はどうだったんですか?
佐藤雅俊 「伝われ!」というか、そういう感じですかね。曲に入り込んでいるのであまり覚えてないかもなあ…。客観的に観てそういう感動があるというか。やっているときは集中しているので、そこに入っているだけなのでわからないです。
――“弾きじゃくる”という感じでしたよね。無我無心で弾いているというか。
佐藤雅俊 それは、曲のパワーだと思いますよ。「曲を表現しよう」とすると、そういう風に見えると思います。全身全霊でやる場面だったからそうなっているだけで。
――一悟さんはどうですか? 印象に残っている曲は?
浦山一悟 「水の夜に」ですね。武道館の演出として水色のレーザーが出て二階席から見ると水面になっているような雰囲気で。それまでのツアーだとそういう雰囲気は作れなかったけど、武道館で正に水の中にいるような空気感ができていて、お客さんの反応が凄く良かったです。みんなが不思議な空間にいるような気持になっているのが凄く印象的でした。
――確かに綺麗でした。あれに限れずライティングが本当に美しくて、曲の世界観を見事なまでに表現していると思いました。「Stay on land」のときに「Λ」のオブジェ(モチーフ)が出てくるんですけど、それがピラミッドのように見えたり、仕掛けが巧妙で。こういう演出は大木さんによるものでしょうか?
大木伸夫 ピラミッドに見せようとはしていなかったんですけど、後ろの「Λ」のモチーフは、いつもだったら後ろをLEDにして映像を流していたんですけど、今回は後ろにばかでかいオブジェを作りたくて。形も形なので十字架みたいにしたかったんです。アンダーグラウンドのヤバい宗教に来ちゃったみたいな空間にしたくて。
――そんな意図があったんですね…。
大木伸夫 日本って宗教っぽい話をするとアレルギーでネガティブなイメージがあるかもしれないんですけど、僕は何の宗教も入っていないけど、唯一ライブや芸術ってエンターテインメントではあるんだけど、それに近いような気がしていて。特に今回のアルバムのジャケットは僕には十字架に見えていて、それがずっとモチーフとしてあるといいかなと思っていたんです。それがただのモチーフだけではなくてLEDになっていて映像が映っていたり、火の鳥が飛んだり、そういう風にしたいと思っていました。