ツアーでの手応えが三部作のアルバムへ繋がっていく
――青春の挫折を覚える「拝啓」は、聞いていて胸に染みてきます。
吉田結威 「拝啓」は青春時代を歌った曲ですね。最初はもっとわかりやすい内容だったんですけど、楽曲のアレンジを手がけてくださった浅田信一さんから「吉田くんの感じてきた原風景が、歌詞の中からもっと見えてもいいんじゃない?」という言葉を頂いたことをきっかけに改めて書き直した曲なんです。
<夕陽が射し込むトイレ ジュッと消えるhi-lite>と記したところ、今の20代の子たちにはhi-liteが煙草の銘柄であることが伝わらなかったりもしたんですね。今どきの若い世代には、よくガットギターで弾いた「禁じられた遊び」のことだってわからない人たちも多いです。だからと言って、それをわかりやすく表現を変えるのではなく、僕の辿ってきたリアルがそれだったからこそ、たとえ意味の分からない人がいようと、その言葉を詰め込むことに意味があると思い、そう書きました。
山田義孝 僕らはいまだ青春の延長戦上にいる気持ちなんですよね。まして、学生時代からの同級生同士で、あの頃からずーっと青春の延長として、今も一緒に活動している感覚もありますからね。
吉田結威 僕が抱いている青春って、けっこう不安と不満に満ちているんですよ。僕ら、今でもずっと夢を追い続けていて、だからこそ不安と不満だらけの日々も過ごし続けています。むしろ20代の頃よりも、何事も腹を割って話しながら同じ夢を求め続けている山田と過ごす今の方が、すごく青春しているなぁという意識がありますからね。
――「欲望」と「もし」は、表情も歌詞の内容も異なりますが、根底では同じ未来へ向かう気持ちを歌にしているように感じました。
吉田結威 その通りです。「もし」も「欲望」も「虹の砂」も、根底にある気持ちや伝えたい想いは一緒です。それだけ、伝えたい気持ちが同じ方向を向いていたってことなんでしょうね。
――「もし」や「虹の砂」はとても前向きな表現を持って歌っていますが、「欲望」は影を背負った上で未来を見据えている印象も覚えるんですよね。
山田義孝 「欲望」は、アルバムへ収録する楽曲を全て作り終え、自分たちなりにアルバムを通して見出した気持ちをもとに、最後に作り上げた楽曲なんです。つまり、手さぐりで想いを掴むように作った曲ではなく、自分たちの気持ちが明確になった上で作りあげた歌で。だから、今の2人の一番くっきりとなった最新の気持ちを、ここには詰め込めたんじゃないかなと思っていて。
――他の曲たちがあったからこそ、「欲望」という楽曲にたどり着けたわけですね。
吉田結威 そうなんです。「欲望」の中で<希望じゃもう歩けない>と歌っているんですけど、何かを得るためには、何かを捨てなきゃいけないと思っていて。僕は、そこで希望を捨てたことが、僕自身の心をすごく成長させたことにも繋がったなと思っています。希望を捨てた変わりに、僕らの中には新しい欲望が芽生えてきたし、今はその欲望へ突き動かされるままに突き進んでいる。それこそが、『欲望』というアルバムを作った上で、吉田山田としての大きな進化になったな、と思っています。
――制作を通してそれぞれに今、どんな手応えを覚えていますか。
吉田結威 僕は僕のやるべきことを、山田は山田のやるべきことをやった上で、互いのことに対しても2人でディスカッションをしながら前へ向かっていける状態が今。だからこそ、今の活動がとてもしんどいけど楽しいし、それを知らしめてくれたのが、『欲望』というアルバムなんだと思います。楽しいんですけど、結果だって求められるので、それが出来なかったら…という不安もあります。だけど今なら、その結果さえも一つの現実としてちゃんと受け入れられる自分たちがいる。
「あのとき、あーすれば良かった」と思うのって、すごく不健康なことで。そこではなく、結果的に勝とうが負けようが、自分たちではすごく納得は出来る。だからこそ楽しいし、しんどさもある。10周年を迎えようとしている今の吉田山田には、その気持ちこそが必要だと思って。それを感じさせてくれたのが、このアルバムなんです。
山田義孝 「人に聞いてもらうため」と考えたら、きっとここまで自分の内面を書くのは難しかっただろうなと、作り終えて僕は感じています。こうやって音源に想いを刻むことは出来ましたけど、これからライブを通してこの想いたちを届けていくことになる。そこに対しての心構えはすごく大変なことで。そう考えたら、「えらいもん作っちゃったなぁ」という想いもあるんです。でも、ここに収録した曲たちをいい顔してステージ上でも歌えたら、きっと10周年の頃には行きたい場所へ行けてるんじゃないか。そんな気もしています。
吉田結威 面白いのが、アルバムへ詰め込んだ気持ちに引っ張られて、他の曲たちもライブで歌うと気持ちがすごく乗っかっていくことなんです。その理由の1つが、過去の曲たちだって自分たちと向き合った上で作った曲たちという背景がある。その気持ちがより浮き彫りにされたからなんだと思って。だから、これから始まるツアーで演奏する曲たちが、どんな風にライブという空間を通して響き渡るのか、そこを楽しみにしています。
そのツアーでの手応えが、三部作の最後となるアルバムへ繋がっていく。その時期に、自分たちがどんな想いを胸にしているのか、それを僕ら自身も楽しみにしてたいなと思います。
(おわり)