個性がないように歌うのも個性
――中島みゆきさんの「糸」は現在かなりの方がカバーされている人気曲ですね。
実は先ほどお話したオーディションには全部この曲で受けていました。ここ2~3年皆さんがカバーをされていますが、僕はずっと前から歌っていたこともあり、「糸」に関しては「キャリアが違うぞ」という自信もあったり(笑)。でも、もともと洋楽が好きだったこともあって、最初はそんなに気になる1曲ではなかったんです。この曲のおかげでいかにカッコつけずにシンプルに歌うかということに気付かされました。フェイクとか入れてカッコつけて歌っていた時はオーディションにも落ちていて、今のスタイルになったきっかけの曲だと思います。自分の声や表現として削ぎ落とさなければいけないところがわかった曲でした。
――洋楽といえば、以前にカーペンターズの「雨の日と月曜日は」などカバーされていました。その英語の発音が綺麗だなと思ったのですが、きっと洋楽がお好きだったからなんですね。
ありがとうございます。でも、当時は発音は全然気にしてなかったんですよ。ネイティブの英語が話せる方についてもらって、厳しい指導の中レコーディングしましたから(笑)。今思い返してもすごく大変でした。
――今作で他の候補曲はどんなものがあったのでしょうか。
松任谷由実さんの「ダンデライオン~遅咲きのたんぽぼ」や福山雅治さんの「最愛」、あと花は咲くプロジェクトの「花は咲く」(2012年に発表されたチャリティーソング)も候補にありました。松田聖子さんの「瑠璃色の地球」と「花は咲く」はどちらにしようかすごく悩んだんですけど、「花は咲く」が最後にくるとまた作品の趣きが変わってしまうというのがあって「瑠璃色の地球」になりました。
――それらのリリースも楽しみにしています。さて、リード曲は「ごめんね…」なのですが、今の気分で一曲だけ推し曲を選ぶとしたらどの曲ですか。
うーん難しいですね…。今の気分だと「瑠璃色の地球」です。実はスケールが大きすぎてこの曲だけなかなか等身大で歌えなくて…。「花は咲く」と悩んだくらいの曲で、被災地でも歌われていたり平和色の強い曲なんです。まだ僕は地球や世界の平和を願える人間ではないし、これからそこまで願えるような人になれるかもわからないですけど、この曲を歌っていると不思議と心が軽くなるような感覚を今コンサートで感じています。
――ちなみに「ごめんね…」がリード曲に選ばれたのにも意味があるんですよね?
この曲は相当歌い込み、僕が特に自信を持って唄える歌だからです(笑)。歌っていて気持ちいいし、情念も込められます。不倫をされたかのような歌い方が出来るんです(笑)。この歌を歌うとグッと来て泣いてしまいそうになる時もあるんです。<連れて行って 別離(わかれ)のない国へ>や<消えない過ちを 後悔する前に>という言葉だけでうるっときてしまうんです。
――曲の世界観に感情移入はしやすい方ですか?
感情移入はもちろんするんですけど、第3者が常にいる感じです。感情移入している自分を見ている自分を作っています。そこを立てないと想いを押すだけの歌になってしまう気がしています。そこのバランスは難しいですね。冷静なところは必ずあります。
――入り込みすぎても駄目なんですね。さて、現在ツアー中なのですが『林部智史 ~意志の上にも三年・秋~ CONCERT TOUR 2018』と『はやしべさとし 三十歳の旅立ち ~叙情歌を道連れに~』と2本を同時に進行されていますが、これはなぜそうしようと。
僕はコンサートアーティストになっていきたいので、今は色んなことに種を蒔いていきたいという思いからです。童謡や叙情歌と言われるものはシンプルに歌わなければいけないんです。例えば「ふるさと」を癖のある歌い方で歌ってしまうと一人ひとりが想いを馳せれないと思うんです。僕は普段の歌でもそれを意識しているところはあるので、個性がないように歌うのも個性のひとつだと思っています。そういう活動をしていきたいなと思った時、想い描いたのが叙情歌でした。
僕は今、それが良いなと思っていて『はやしべさとし 三十歳の旅立ち ~叙情歌を道連れに~』は皆さんがどう感じてくれるか未知数なツアーです。「どう思ってくれるのだろうかツアー」みたいな(笑)。なので今後どうなるかは今回やってみてというところが大きいです。初日が終わったばかりなんですけど、良いツアーになるんじゃないかなと思っています。自分の成長にも繋がりますし、このままコンスタントにやっていっても良いかなと今は思っていますので、是非両方とも観に来て頂けたら嬉しいです。
(おわり)