アレンジにこだわった『カタリベ1』
――原曲のオケのままではカバーではなくカラオケという認識なのですね。『カタリベ1』が完成しましたが、現在の心境はいかがですか?
今年はオリジナルアルバム『I(ファースト) 』と今作の2枚も出させて頂いたんですけど、シンガーソングライターの面も出しながら、こうやってカバーもしていきたいと思っていました。コンサートでもカバーは必ず歌ってきたこともあって、同じ年にリリース出来て良かったなと思っています。この2枚で林部智史というものを見せたかった。でも、カバーアルバムの方がこだわりは強かったかも知れません。オリジナル楽曲は詞と曲に思いが詰まっているので、アレンジはスムーズにいったんですけど、今回は曲が既にあるものなのでアレンジ勝負みたいなところはありました。いかに自分の声が活かせるかというところと、原曲をリスペクトしているかというところを僕は見せたかったので、原曲からかけ離れているのは嫌だったし、自分の声が活かされないようなアレンジにはしたくないという思いがありました。なのでアレンジは凄くこだわりました。
――アレンジャーは安部潤さんが担当されていますが、相当やり取りをされたのでは?
そうですね。それもあってご迷惑をお掛けしたと思います。皆さんの原曲へのイメージは必ずあるので、そこも大事にしたいですから。
――アレンジという面では女性ボーカル曲はキーの問題も出てくるとは思うのですが、キーに関してはいかがでしたか。林部さんの音域ですとオリジナルキーでもいけそうな曲もありそうですが。
さすがに女性曲は全曲キーは下げました。僕の中では男性曲の方が実は難しくて…。小田和正さんの「たしかなこと」と槇原敬之さんの「僕が一番欲しかったもの 」は原曲キーで歌わせてもらっているのですが、男性曲を原曲キーで歌うと同じ感じに聴こえてしまうんです。それはカバーとしてはあまり良くないと思っていて。でも、女性曲はキーを下げて、僕が歌えばそれだけでも個性は出やすいので、男性曲の方が難しいんです。小田さんの曲だとそのまま歌うと何をやっても負けてしまうので、すごく悩みました。
――原曲のイメージを崩さず個性を出すというのは確かに難しそうです。今作は昔から歌ってきていたものなど、林部さんのルーツに迫るところもあると思うのですが選曲はスムーズにいきましたか?
それでも結構悩みました。歌謡曲やフォークなど60年代や70年代のカバーもコンサートではやっていて、お客さんも今回どういった選曲でくるんだろうと思ったと思います。僕の中でフォークなどは背伸びして歌っている感じもあったりして。今は因幡晃さんの曲やさだまさしさんでも「防人の歌」のような曲を歌わせてもらっていて。
――渋いですね。
おそらくフォークや歌謡曲系のカバーアルバムになるんじゃないかなと思っていた人もいたと思うんです。でも等身大で歌える曲を集めたいなと思いました。
――では今作にサブタイトルを付けるとしたら“等身大”?
そうですね。曲選びは「等身大」でアレンジに関しては「哀愁」ですね。というのもアレンジ作業をしている時に「なんか哀愁が足りない」というようなワードがよく出ていたので(笑)。
――さて、楽曲についてお聞きしますが、槇原敬之さんの曲でも数ある中から「僕が一番欲しかったもの」をチョイスしたのが興味深いのですが、この曲を選んだ背景にはどのようなものがあったのでしょうか。
アマチュア時代から歌っていた曲なんです。この曲が好きな理由はアップテンポなんだけど泣ける曲というところです。そういう曲が僕は好きなんです。アマチュア時代からオリジナルのアレンジとは変えてやっていて、もう少しリズミカルに歌いたいという意識が当時からありました。もう何年も前から「僕の曲だ」くらいの意識で歌っていました(笑)。
――スターダスト☆レビューの「木蘭の涙」も、聴いていて感銘を受けました。
オリジナルはビート感のあるアレンジなんです。そのバージョンももちろん良かったんですけど、そのあとアコースティックアレンジでリリースされたのを聴いて、すごく良いなと思いました。それからライブでも歌うようになりました。このアコースティックバージョンの根本要さんの歌い方も好きで、今回それを完コピしています。
――そのニュアンスをそのまま表現した曲は他にもありますか。
松本英子さんの「Squall」や高橋真梨子さんの「ごめんね…」、秦基博さんの「ひまわりの約束」もオリジナルのニュアンスを活かしました。「Squall」にはキメがあるんですけど、それをやるかやらないか問題とかもあって(笑)。でもその曲の核になる部分は残すなど原曲に忠実に表現しています。(※高橋真梨子の「高」は、はしごだか表記)