SNSではなく音楽で発信、桑原あい ジェンダーを超えた自分の音
INTERVIEW

SNSではなく音楽で発信、桑原あい ジェンダーを超えた自分の音


記者:小池直也

撮影:

掲載:18年08月25日

読了時間:約15分

多彩な客演

桑原あい(撮影=冨田味我)

――「The Error」では、テナーサックスのベン・ウェンデルをフィーチャーしていますね。

 もともと私がベン・ウェンデルさんのファンで。彼の音色がすごく好きなんですよ。この曲はもともとサックスと山田玲のスウィングを前面に出した曲をやりたいと思ったところからスタートしています。でも、もしサックス奏者でぴんとくる人がいなかったらピアノトリオでもいいや、と思っていて。ベンに決まるまでは結構時間がかかりましたね。私がやりたいサックスプレイヤーはみんなニューヨークにいたから(笑)。お金もかかってしまいますし。

 そうしたらベンがたまたま来日しているタイミングがあって、それがレコーディングの日程と被っていたんです。大変だけど来てくれないかなと相談してみたら「深夜になるけど、それでよければ」と快諾してくれました。そこから曲を書いてできた曲です。音楽として楽しめるものにしようと思って作りましたけど、結果的に一番ジャズっぽく仕上がりましたね。レコーディングは24時にメンバーに集まってもらって。みんな初見の中でしたけど、夜中の1時には録り終わりましたね。3テイクで決まりました。

――ものんくるの吉田沙良さんについては?

 「When You Feel Sad」は沙良ちゃんに歌って欲しくて書いた曲です。「小学校2年生くらいの女の子の歌だから、その人になった気持ちで歌ってほしい」と伝えました。沙良ちゃんは歌を歌うというよりも、言葉を歌う人という印象があります。女優みたいな。ライブをふたりでした事もありますけど、そういう時の英語の発音がものすごくいいんです。ものんくるで歌っている時には出さない顔が絶対あると思っていて。そういう顔の彼女もすごい好きなんです。

 ジャズスタンダードを歌ってもらった時も、ジャズを歌う人とは違うアプローチですごく良かったんですよね。吉田沙良のフィルターを通して歌われるジャズになっている。私はそれが一番ジャズだと思うんです。「Love Me or Leave Me」も色々な言語や国の人がカバーしているじゃないですか。だから、その人のフィールでカバーしていいんですよ。だからジャズの人がカバーしなきゃいけない、という事はないんです。沙良ちゃんはそれができる人だと思ったのでお願いしました。

 レコーディングはすごく緊張していたみたいですけど、完璧でしたね。そして、改めて彼女が素晴らしかったのは録り直さなかったところ。ものんくるでは録り直したりするらしいけど「これはあいちゃんが思っている世界で、みんながこういう演奏したから、私はこの歌になった。だからこれでいい」と。音楽のためにその世界を生きてきたからこそ、撮り直しや修正はしなかったんだと思います。その向き合い方が本当にすごいですよね。

――「Improvisation XV -Hommage A Edith Piaf-」のストリングスによるアレンジも素晴らしかったです。

 あれは私がアレンジしました。私が弾いている時間は15秒くらいですけど(笑)。せっかくクラシックの曲をアレンジするので、普通にやったらつまらないと思ってこういう編曲にしました。フランシス・プーランクがエディット・ピアフに書いた、というだけでもすごく魅力的ですよね。私の中で弦楽器は女性的な響きをしていると思っています。ピアフの人生もそうですけど、女性の生き様を音楽にしたかったというのもあります。

――最近はジャズメンがクラシックに言及する機会が多いなと感じます。クラシックを取り上げる事についてどう思いますか?

 自然です。私はクラシックやジャズ、今のジャズや昔のジャズとかいうものでさえわかっていません。色々な考え方はあっていいと思いますが、クラシックを敢えて取り入れるみたいな気持ちは全くないですね。「ミニマルな弦楽四重奏、何かいい曲ないかな」と考えていた時に自然にこの曲が浮かびました。

――前作の『Dear Family』では7/8拍子の曲が何曲かありましたが、今作はほぼ4拍子の曲ですね。

 そうですね。それこそ「Improvisation XV -Hommage A Edith Piaf-」だけじゃないですか。これは複雑で変拍子という感じもないですね。超大変でしたよ(笑)。1小節ずつ<3/8・7/16・9/8>となっていて。演奏者の皆さんが素晴らしかったので、すごく早く終わった方だと思うんですけど大変そうでしたね。

 他のアルバム全体が4拍子なのは結果的にそうなっただけです。「全部1」みたいな、円の様な感覚でリズムをとっているので、変拍子とは考えていないんですよ。自分でも他人に言われて変拍子がないと気付いたくらいですから。

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